At, one time

身近にある芸術品

「椅子」には不思議な魅力があります。
家具という生活空間の中で実際に使用する機能的なものでありながら、一方で造形とその陰影が美しい、それだけで主張のある芸術品でもある不思議なモノ。
それは個性的な建築物の存在感に近いものがあります。

欧米では「家具は芸術」という認識が強くあります。
事実、多くの著名な建築家は素晴らしい「椅子」を生み出しています。

緩やかな曲線とそれに相対する縦の直線が優美な佇まいを生み出している「バレル・チェア」(1937年)の制作者は、有名なアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトです。
黒い格子状の高い背もたれを持つ黒い椅子「ヒルハウス№292」(1902年)はそれが作り出す美しい影も魅力です。これは近代ヨーロッパ建築に多大な影響を与えたチャールズ・レニー・マッキントッシュの作品です。
彼が手がけた邸宅は、この椅子に通づるイメージの格子や直線を多用した壁や階段のデザインが目を引きます。
強烈な曲線の存在感と個性が感じられる椅子「カサ・カルヴェット」(1900年頃)。一見しただけでそれがあの誰もが知っているサグラダファミリアの建築家アントニ・ガウディの作品だと分かります。彼の建築物にある個性的な曲線のイメージがこの椅子にも強く表れています。

世界の名作と言われる椅子のおよそ8割は建築家によるデザインのものだと言われています。
小さな、しかし精密に設計された美しいフォルムを持つ椅子。それを見ると建築家の個性と建物の原点が凝縮されているようです。

以前テレビのインタビューで建築家で椅子のデザインもする中村好文さんは、なぜ建築家が椅子を作るのかという問いにこう答えられていました。

「建築には常にクライアント(施主)がいて、その希望に沿って設計するし、費用や工期など色々な制限がある。」
「家具のデザインは一切の制約もなく、自分の発想をそのまま形にすることができる。」
また、くつろげる「椅子」を考えることにより、居心地のいい空間を持つ「家」を
造り出すこともできるそうです。
「人」が直に体を預ける「椅子」。その人に一番近い家具である椅子から、住環境である「住まい」を発想していくそうです。


「椅子」、特に気の椅子は時代を経ると、新しいものとは違った風合いも見せてくれます。その椅子に座っていると、包まれているような安心感と木目や色合いのもつ独特の質感があります。
私の自宅には木製のロッキングチェアがあります。
主人の父が昔購入したものらしく、ずいぶん古くなっていて、一度は捨てられそうになったものを修理して使っています。
当時はわざわざ修理しなくても・・・とちょっと思っていましたが、今はこの椅子が部屋にあるだけでなんだか落ち着き、そこで本を読むのが大好きになりました。
これからも大切に使い続け、ともに時代を過ごしていきたいなと思います。

小さな一つの家具である椅子。でもそこには造る人の思いや使う人の歴史が注ぎ込まれます。
だから椅子には不思議な魅力が生まれるのだと思います。
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by carino59 | 2009-06-30 15:09